〈2025.5月号 書評〉宮田 律著「イスラエルの自滅 剣によって立つ者、必ず剣によって倒される」・・・国家存亡の危機にある衝撃的な実態と要因を解く 評者:栩木 誠(元日経新聞編集員)

英国の〝三枚舌外交〟の所産ともいえる、イスラエルの建国を契機に、約80年にわたり、戦火が絶えないパレスチナ。今も国際法を無視した、イスラエルによるガザ地区などへの非人道的な攻撃が続く。今回の侵攻以降だけでも、子どもをはじめ無辜の市民の犠牲は、夥しい数に上る。
だが強力な米国の支援を受け、傍若無人に振る舞う同国も、莫大な戦費で国の財政負担が増大。高い成長を誇ってきたハイテク産業なども戦争による労働力不足に直面、国民の命綱である農業も危機的状態にある。
また現状への不安から、「ユダヤ人にとっての安住の地」を離れ海外への移住が増え続ける。その一方で、米国など世界各地のユダヤ人社会では、イスラエル政府の非常な行為への違和感や反発、国際世論の厳しい批判が拡がり続ける。
米国のベトナム侵略の轍を踏むかのような戦争の長期化が、同国を巡る環境を悪化させ、自壊の道へと向かわせている。
本書の副題「剣によって立つ者、必ず剣によって倒れる」(『マタイに よる福音書』26章53節)については、これまで十分に焦点が当てられてこなかった。「内外の幾重 にも重なる脅威により、まさに国家存亡の危機を迎えている」イスラエルが、内包するリスク、そ の衝撃的な実態と要因を具体的事例やデータを駆使し、多面的に解き明かしたのが本書だ。
パレスチナの人々や周辺諸国などとの対話を行い、平和の報酬を知ろうとしない限り、「イスラ エルは半永久的に戦争を続ける国となり…将来に望みが持てない国になるだろう」との著者の指摘は示唆に富む。 (光文社 新書 940円) 栩木 誠 (元日経新聞編集委員)