〈2025.6月号 書評〉高世 仁著「ウクライナはなぜ戦い続けるのか ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国」・・・戦場の現場で掴んだ愛国を支えるもの  評者:武隈喜一(元テレビ朝日モスクワ支局長) 



 ウクライナ停戦交渉を巡る情報が、メディアに溢れる。だが忘れてならないのは、今でも戦争が続き、市民の死傷者が続出していることだ。
 本書は著者がウクライナの戦場を訪れ、ロケットランチャー部隊やドローン部隊、ロシア軍が残した地雷撤去の現場に足を運び、日本の大手メディアの報道では知ることのできないウクライナ人の戦いを伝えてくれる。
 2023年10月、ウクライナ取材に著者を駆り立てたのは、劣勢と恐怖のなかで、ウクライナ国民が軍事大国ロシアに抵抗し闘い続けるのはなぜなのか、という問いからであった。
 著者は民間ボランティアや市民の活動に眼差しを向ける。資金を集めてドローンを購入、兵士に操縦法や射撃法を教える民間組織、前線への幹線道路で兵士への炊き出しを続ける団体、危険を顧みず医療品を前線部隊に届ける若者組織。
 著者は「前線に近い町や村でもっとも頼りにされているのは、行政組織ではなく、これら市民ボランティアだ」と書く。 この一面は、市民同士の助け合いが歴史的に育んできたウクライナ社会の特徴そのもの。だが報じられるのは稀有だ。
 前線からの9本のリポートを支えるように、本書では、ソ連史の中でのウクライナ、マイダン革命から戦争に至る過程、戦争の流れが極めて的確に記述され、リポートの理解を助けてくれる。
 「ここが日本なら、あ なたはどうする?」―祖国のために戦い続けるウクライナの戦場を巡った著者が、市民と愛国について、私たちへ提起している問いかけである。(旬報社 1700 円) 武隈喜一(元テレビ朝日モスクワ支局長)



ウクライナはなぜ戦い続けるのか ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 旬報社(2024/12/16)