〈2025.8月号 書評〉春名 幹男(著)「世界を変えたスパイたち──ソ連崩壊とプーチン報復の真相」・・・暗躍する情報機関─その隠された真相に迫る  評者:孫崎 享(外交評論家) 




 本書の著者は、日本における情報機関、特にCIA研究の第一人者である。彼が2000年に 『秘密のファイルCIAの対日工作(上下)』(共 同通信社)を出版した時には驚愕した。
 情報機関の活動は秘密に覆われている。それを一部であれ世に知らせた功績は大きい。後に私が彼と話す機会があったとき、「あんな本を出して 命の危険を感じたことはないのか」と問うたところ、彼は笑って「それは ない」と答えた。思わず「命の危険はなかったのか」と、突っこんで 聞きたくなる類の本である。
 彼はワシントン支局長を経て、2007年共同通信を退職。早稲田大学客員教授などを歴任しつつ、同じ姿勢で情報機関の真相に迫り続ける。
 さて本書ではウクライナ戦争に関する部分が多い。第6章 プーチンは ウクライナ侵攻で復讐、第7章 トランプを操るプーチン、第8章 トラ ンプ政権が去りウクライナ侵攻へ、第9章 ウク ラ イナ侵攻まで8年間の暗闘、とある。
 日本の多くの人は「突然ロシアがウクライナを攻めた、国際法を破るロシアは許せない」との気持ちで、ほぼ一色であったが、そんな単純な話ではない。ウクライナ戦争は、まだ続いている。ウ クライナを支援してきた米国ではトランプが二期目の大統領になり、事態は一段と複雑さを増している。日本の対応も「ウ クライナ支援、ロシア糾弾」とだけでは持たなくなる時が来る。
 情報機関の動きの全容を知ることは出来ない。真実を探すには大変な労力がいる。著者は今回も一部であれ真実を示してくれた。読まないで済ませられるわけがない。  (朝日新書 970円) 孫崎 享(外交評論家)



暗躍する情報機関─
その隠された真相に迫る 朝日新聞出版 (2025/2/21)