〈2025.12月号 ‘25読書回顧〉朴 喆熙 (著)『誠信交隣 韓日と東アジアの未来を読む』・・・「近くて近い」日韓関係へ 私のいちおし:鈴木 伸幸(東京新聞編集委員)


石米トランプ大統領は自国中心主義を鮮明にし、日本では「日本人ファースト」を唱える政党が躍進。ウクライナに侵攻したロシアには中国と北朝鮮が急接近─。地政学的な変化が進む中、民主主義や資本主義といった価値観を共有する隣国の韓国は、日本にとって重要な外交パートナーだ。
「近くて遠い国」とも言われたが、今年、誕生した革新の李在明大統領は「実用外交」を標榜。
日韓は「近くて近い」関係に成熟しようと努める。それを再考するための良書が、前駐日韓国大使の朴喆熙『誠信交隣』(中日新聞)だ。2012年から21年にかけて書かれたコラムを中心に、最近の講演会議事録なども加えて編集された。
「温故知新」というほど古くはないが、日米でも研究活動した著者が国交正常化60年を迎えた日韓関係を軸に米国、中国、北朝鮮も交えて東アジアを論考した本書は今こそ読む価値がある。
「戦後80年」というメモリアルイヤーの今年は、終戦で始まった悲劇にも目を向けてはどうだろうか。城内康伸『奪還』(新潮社)は、朝鮮半島北部で難民化した約25万人の邦人を帰国させんと命懸けで奔走し、後に「引き揚げの神様」と呼ばれた松村義士男の闘いの記録である。家を追われた邦人は何万人もが飢えと疫病に行き倒れた。そんな中、松村は約6万人を救った。本書は12月のBS-NHK「昭和の選択」の原案になった。
現在進行形の「戦後」もある。昨年末に終わるには終わったシリア内戦。小松由佳『シリアの家族』(集英社)はシリア人と結婚し、2人の子どもがいる著者が内部から見た取材記。独裁制による恐怖政治が敷かれ、政府軍と反政府軍が対峙。
その反政府軍も一枚岩ではない。市民に複雑な分断が生まれ国内外で一千万人超が難民化。それが欧州で排外的な極右政党の台頭を招く一因に。内戦は終わっていない。 私のいちおし:鈴木 伸幸(東京新聞編集委員) (中日新聞 2,200円)





