〈2025.5月号 書評〉菅沼堅吾著「東京新聞はなぜ、空気を読まないのか」・・・ズバリ本質を突く報道 言葉でごまかす政治を許すな  評者:丸山重威(ジャーナリズム研究者) 



 著者は東京新聞が2014年にJCJ大賞を受賞したときの編集局長だった。受賞理由は「憲法、安保、原発―ズバリ核心を突く1面の<論点明示報道>」であった。
本書で著者は「受賞の知らせを聞いたときは正直、戸惑った。『論点明示報道』とは初めて聞いた言葉だった」と書いている。そうか…、局長は知らなかったのか!
 当時、現場の局デスクのIさんとは話したが、確かに「論点明示報道」は、推薦委員会段階での私や故阿部裕事務局長の考えた言葉だった。
 政治記事では、「問題点」や「論点」は、「事実」と別に「解説」など で書くのが普通だが、その年、同紙の記事はそれを破って、率直に、本質を突いている。この手法を評価できないか。そんな議論をし、選考委員会も同様の評価だった。
 著者は本書で「権力側の発表に対して『大本営発表』という批判がつきまとう以上、そのまま伝える記事の書き方ばかりでは読者の信頼を失ってしまう」「問題点や論点まで1本の記事で明示した方がそれにふさわしいのならば、書き方をどんどん改めていけばいい」と説明。解釈改憲を巡って、「最高責任者は私」 という発言を「首相、立憲主義を否定」とした例などを紹介している。
 本書で指摘する 「核心を言葉でごまかす」政治手法は今も続く。権力を監視し、問題の本質はどこかを、新聞社全体で追究する。「新しい戦前の中、新聞は誰のために、何のために存在しているのか?」を問い、「戦える国」になっても「闘わない国」であり続けたい、と宣言する。
 本書は〈新聞の危機〉に奮闘する新聞人への心からのエールである。 (東京新聞社 1400円) 丸山重威(ジャーナリズム研究者)



東京新聞はなぜ、空気を読まないのか 東京新聞出版(中日新聞東京本社)(2025/1/29)