〈2025.7月号 緑蔭特集〉前川貴行(著)「ボノボ──最後の類人猿」 ・・・コンゴ川流域のボノボ、謎の生態に熱帯雨林で迫る 私のおすすめ:土井 秀夫(元「アニマ」編集長)

ボノボはチンパンジーに似ており、かつては動物学の世界でも、ピグミーチンパンジーと称され20紀に新種として認知されたゆえに、「最後の類人猿」とされる。
しかし、チンパンジーとボノボの生態は真逆といっていい。個体や群れの間で攻撃的な行動を、しばしば見せるチンパンジーにくらべ、擬人的過ぎるかもしれないが、ボノボは融和とか寛容という表現がふさわしい動物であり、自分たちの間で激しい闘争を行うことはほとんどないという。
異性や同性の間で、交尾あるいはそれに近いしぐさを使って緊張をほぐし、群れの調和を保持しようとする。類人猿に限らず、このような行動をとる動物は、まれといってよい。本書は森林から海洋まで、世界各地の野生動物の生態を、優れたカメラアイで表現してきた写真家が、踏査に最も困難な場所とされるアフリカ、コンゴ川流域の熱帯雨林でボノボに迫った写真絵本である。現地でマラリアに罹り、取材時間も限られる中、森の奥深くで捉えたボノボたちの表情から、著者が抱く彼らへの共感が伝わってくる。
親子、果実の採取、樹上でのくつろぎ等々、警戒心が強く出会うことすら困難というボノボの姿に、読者は感銘を覚えるだろう。彼らのまなざしは、生存の危機を訴えているかのようだ。
ボノボの生態・行動の研究は霊長類学者にとっても緒についたばかり、生態写真についても同様であろうが、本書は絶滅危惧種とされるこの謎に満ちた類人猿を知るきっかけとして読んでほしい。彼らと私たちが生きている地球の自然の尊さと危うさを理解するためにも。(新日本出版社 2,090円 ) 土居秀夫 元(「アニマ」編集長)