〈2025.8月号 書評〉萩原 健(著)「ガザ、戦下の人道医療援助」・・・破壊しつくされる日常その中で命を救う活動 評者:猫塚 義夫(北海道パレスチナ医療奉仕団団長)

イスラエルによるガザの軍事侵攻は、2年弱の 間に6万人の犠牲者と14万人の負傷者を生み出した。瓦礫と化したガザでは、多くの餓死者が出るなど、多面的なジェノサイドが進行中だ。
著者は運動体としての国境なき医師団(MSF)に参加し、人道医療援助の活動を実践してきた。
MSFには、医療者が中心と思われているが、その医療支援を実行するためには、水・食料や医 薬品の確保と組織の適切な運営が活動の前提である。また現地での医療団体や公的医療機関・行政との折衝も必要不可欠である。その大切な任務を遂行するのがMSF緊急対応コーディネーターである著者の働きである。
本書での臨場感ある交渉場面は、パレスチナで医療支援活動を行う私たちに、大きな示唆を与えてくれた。また戦時下での状況判断やMSFの連携・調整活動、現地社会 との関係性構築の成否が使命達成に最重要なことがわかる。
一方、私たち医療者の活動には国境はない。私の周りの地域医療とガザでの戦下での緊急医療には、状況の違いこそあれ理念的には連続性があるのだ。
本書を通して、医療者以外からも、MSFなど人道支援の活動へ参加してくれる人が増える契機になることを、私は願ってやまない。
著者も言うように、ガザ停戦と人道支援の活動は、すでに人道的視点の枠を超えて、政治の問題となっている。日本政府には外交の底力を示してほしい。そして私たちが「ガザ停戦」の声をいっそう強くすることを著者は願っているのである。 (ホーム社 2,000円) 猫塚 義夫(北海道パレスチナ医療奉仕団団長)