〈2025.9月号 好書耕読〉与那覇 恵子(著)「沖縄を「悲しい宿命の島」にするのは誰か?」・・・沖縄が告発する日本の危機 選者:谷山 博史(沖縄対話プロジェクト発起人)

与那覇恵子『沖縄を「悲しい宿命の島」にするのは誰か?』(コールサック社)は、沖縄を「宿命の島」にしようとする者たちへの怒りと抵抗の書であり、怒りと抵抗に実証的な肉付けを与える理論の書である。
この原稿を書いている時、著者から動画が送られてきた。自衛隊の訓練に抗議していた住民を、宮古島駐屯地のトップが恫喝している場面だ。メッセージには「かつての沖縄戦前と同じですね。最初は大人しかった軍人が横柄で乱暴に、そして残酷になっていった」とある。
本書で描く沖縄の空は、厚く重苦しい天蓋に覆われている。天蓋は沖縄の戦前から戦後、現在に至る抑圧と差別の歴史という縦糸と、最近起きた基地関連の事件・事故や対中国の戦争に向けた日米政府の政策と政治決定の数々を横糸にして編まれている。
その天蓋に向けて振り上げた拳は、天蓋を垂直に貫くもう一本の糸だ。沖縄は「宿命の島」ではないという著者の意思表示であり、沖縄を再び戦場にさせないための行動提起でもある。「序文に代えて」で掲載された詩「沖縄の怒り」で描かれた沖縄の空に向かって振り上げた拳が、そのことを暗喩している。
本書を読むと冒頭の駐屯地指令の恫喝さえも歴史的、政治的な帰結としての現象だということが分かる。戦後沖縄の歴史にみる差別の構造、改憲問題の歴史的構造、地位協定と日米合同委員会、安倍政権の検証、「台湾有事」論を巡る認識分析などなど、沖縄の「苦しみ」という「弱者」のプリズムを通してこそ見えてくる戦争に向かう日本の実相を丹念に描き出している。
沖縄の空に突き上げる拳は、ノーモア沖縄戦の会、沖縄対話プロジェクト、南京・沖縄を結ぶ会、ピースボート世界一周の旅での行動に結実されていく。「弱者」をつなぐ対話の実践が示すのは「弱者」といえども無力ではないということである。(コールサック社 1,870円) 谷山 博史(沖縄対話プロジェクト発起人)