〈2025.9月号 書評〉安田 菜津紀(著)「遺骨と祈り」・・・〈不条理が強いられた場所「踏みつけられる」人びと〉 評者:川上 泰徳(中東ジャーナリスト)

フォトジャーナリストである著者が、福島、沖縄、パレスチナの3つの場所を巡る6年間の取材記録である。共通するのは「不条理を押しつけられた場所」。
福島では遺骨を探す男性。地震と津波で父と妻と次女を失い、原発事故で避難する「一時帰宅」の機会に、次女の遺骨を探す。自宅近くで除染廃棄物を集める「中間処理施設」の計画が進む。
沖縄では沖縄戦の遺骨を収拾するボランティア男性。遺骨捜索は「行動で示す慰霊」と考える。辺野古の米軍基地建設で、遺骨の混じった土砂が使われる懸念を示す。
福島の男性は沖縄の男性を訪ねる。その後、沖縄の男性が福島に行き、次女の遺骨探しに協力する。同行する著者は「国が命の尊厳を幾重にも踏みつけながら何かを推し進めていく構造はつながっている」と書く。
著者はパレスチナの取材中に、ガザで知り合った女性と、2023年10月以降、イスラエルの虐殺下、連絡を取り合う。欧州からユダヤ人問題の「解決」を押しつけられたパレスチナがいま「民族浄化」に直面する。
著者は沖縄、福島、パレスチナの「踏みつけられた」人々の言葉を綴りながら、「痛み」を感じないですむ自分が、特権的な「踏んでいる側」にいるという自覚を語る。
読了後、戦時中の水没事故で183人が死亡した海底炭鉱「長生炭鉱」で人骨が見つかり、遺族らが国に調査や遺骨収集を求めても、国は応じようとしないニュースに接した。ここにも「踏みつけられた」人々の物語が続いていると、本書のテーマを反芻した。(産業編集センター 1,600円)川上 泰徳(中東ジャーナリスト)