〈2025.9月号 書評〉後藤秀典(著)「ルポ 司法崩壊」・・・国民からの信頼に背く最高裁  評者:樋口 英明(元裁判官)



 福島原発事故による損害について、最高裁の多数意見は国に賠償責任がないとした。国に賠償責任があるとした説得力に富む三浦裁判官の意見ではなく、なぜ全く説得力のない意見が、多数意見なったのだろうか。
 本書は、その背景を綿 密な取材に基づいて明らかにしている。多数意見の3名の裁判官の内、2名は東京電力と深い繋がりのある大手法律事務所の出身者であり、1名は定年退官後間もなく同様な大手法律事務所に就職した。
 最高裁は地裁、高裁の裁判官に対し、常々「裁判官が公平であるのは当たり前である。公平であることが外からも見えるようにしなさい」と言ってきた。
 しかし本書は、当の最高裁が最も「公平らしさ」を踏みにじっていることを数々の事例によって明らかにした。このような実情を知れば、地裁や高裁の裁判官たちは驚くに違いないし、「人権擁護の最後の砦」として司法に期待を寄せている国民は失望するに違いない。
 民主主義と法の支配は国の基本である。法の支配とは裁判所が最終決定権を持つことをいう。選挙で選ばれていない裁判官の決定が、そのような力を持ち得るのは、裁判官は法と論理に従って公平に判断し、私利私欲に走らないという国民の信頼があればこそだ。
 この国民からの信頼こそが司法の基盤である。この基盤が今、最高裁から崩れ始めている。その崩壊を防ぐためには、広く国民が最高裁の実態を知ることが、不可欠である。目をつぶれば崩壊は進んでいく。(地平社 1,800円) 樋口 英明(元裁判官)



ルポ 司法崩壊 地平社 (2025/5/13)