〈2025.10月号 書評〉早川 タダノリ(著)『「日本スゴイ」の時代 カジュアル化するナショナリズム』・・・事実や真実を押しつぶす 「日本スゴイ」の危うさ  評者:鈴木 耕(編集者)



 なにしろスゴイ、誰がなんてったってスゴイ、政府が音頭をとって「クールジャパン」を叫べばテレビや雑誌、書籍、時 には新聞までが呼応する官民挙げての「ニッポン万歳」大合唱。
 かくて日本はスゴイ文化、スゴイ技術、スゴイ 風土、スゴイ国民の一億総スゴイ化に向けて驀進中…と思ったら、もはや化けの皮がバレバレで情けない国に成り下がって…と、本書は「日本スゴ イ」の本質をバッサリ斬り捨てる。
 著者の早川さんは、私なら絶対に手にしないような本や資料を集めまくって、「日本スゴイ」の 実態に迫っていく。いやぁ、その姿勢には感服つかまつった。本気で早川さんスゴイ(これは誉め言葉ですよ)。
 でもこれは昔のことじゃない。かつて大流行したテレビでの「日本スゴイ」が底流となって、今 やSNS上に進出し、政治にまで影響を及ぼすようになったから、見過ごすわけにはいかない。
 そう著者に指摘されれば、まさにその通り。真 偽不明のデマ情報が、次々に伝聞形式で、いつの間にか事実(らしきもの)に成り上がる。最近 の選挙戦の様相などを見ていると、ウソとデマとフェイクが入り混じった言説が、事実や真実を押しつぶし、堂々と情報街道のど真ん中を、そこのけそこのけとばかりに、突っ走っているではないですか。
 粗雑な「日本人論」が 結局戦争への道を開いたことを、本書は丁寧に解説する。その上で「日本 スゴイ」論の危うさを教えてくれるのだ。
 今回の自民党総裁選などは、ウソとフェイクとデマの戦争だった。その結果がアレです。ヤバいよ、ほんとうに。私たち は著者の警告を、心して聞かなければならない。(朝日新書 900円) 鈴木 耕(編集者)

日本政治の大問題 朝日新聞出版 (2025/5/13)