〈2025.10月号 書評〉金子 勝(著)『フェイクファシズム 飲み込まれていく日本』・・・産業の衰退、農村は荒廃etc. 〈アベノミクス〉からの脱却を  評者:坂本 充孝(元東京新聞編集者)



 世界で民主主義と自由主義が揺らいでいる。気鋭の経済学者である著者は、その理由をフェイクファシズムの台頭にあると説く。フェイクファシズムとは何か。独裁的指導者が私利的目的のために使う政治手法で、特徴は3つあるという。
 ①山ほど嘘をつく ②陰謀論と同情論をまき散らす ③「敵友概念」で対立構造をつくる。
 ナチスのファシズムは暴力装置を多用した。だが、最近はSNSを味方にし、フェイクを拡散することで力を得ている。この中心に座るのが、米国トランプ大統領であるというわけだ。
 気を抜けば日本も飲み込まれる。この危機をどう生きればよいのか。ここからが本書の核心といっていいだろう。
 著者が強調するのは、故安倍晋三首相が打ち出した経済政策<アベノミクス>の失敗を認め、脱 却することだ。金融緩和を軸としたこの政策の発動以後、日本の産業はみるみるうちに衰退した。
 特に情報通信技術の分野は世界の水準から取り残されつつある。米国のIT企業群GAFAMの猛攻に圧倒され、太刀打ちすらできない状態になっている。
 こんな愚策が、なぜ続いたのか。理由は安倍政権が構築した「2015年体制」であると、著者 は指摘する。内閣法制局長官、 日銀総裁、NHK会長などを身内で抑え込み、内閣人事局で官僚制を破壊し、電波停止示唆でテレビメディアを萎縮させた。
 批判の声は封じられ、この結果、デフレ脱却は遅れ農村は荒廃。原発は再稼働し国民はマイナ保険証失敗のツケを負う。
 まずは民主主義を立て直さなければ、と著者。そのための知恵が詰まった一冊。(日刊現代 1,500円) 坂本 充孝(元東京新聞編集委員)

フェイクファシズム 飲み込まれていく日本
日刊現代 (2025/7/15)