〈2025.11月号 書評〉兵庫県保険医協会/協会西宮・芦屋支部 (著)『阪神・淡路大震災30年、南海トラフ巨大震災に備える』・・・「災害列島日本」に必要な医療支援のノウハウ満載  評者:杉山 正隆(ジャーナリスト)



 1955年1月17日午前5時46分に発生した大きな揺れ。死者・行方不明6437人、住宅全壊10万棟にもなる阪神・淡路大震災だ。
 散乱するカルテや医療機器を片付け、けが人の診療や検死に追われながら、トラックやバイクを手配して、医院を災害対策の拠点にした医師がいた。西宮市の広川恵一さんだ。
 翌日には自院を支援やボランティア受け入れの窓口にし、地元の兵庫県保険医協会の全面的な協力を得て、全国から医師らを受け入れ、ニーズの把握、水、医薬品の配送をするなど、獅子奮迅の 努力が実り、現在の災害支援の先駆けとなった。
 被災地での医療は時間経過とともに大きく変化する。発災直後は命を助け重症化を防ぐ外傷処置や検死、避難所の頻回訪問、安否確認が主となる。その後、1週間までは慢性疾患への対応や衛生維持、精神的心理的な対応。1カ月をめどに、栄養や環境、避難所での健康・プライバシー管理などに移行していく。
 広川さんは、(1)災害医療は救急医療と異なる、(2)通常でないのだから通常通りにしようというのが異常、(3)混乱しているからこそニーズを積極的に探す、この3つを強調する。スタッフなど皆が被災しており、例えば「保険証を」などと求めるのは無理がある。被災者が「大丈夫です」と言っても、あとで「実は…」「言いにくかった」と分かることも多い。
 東日本大震災・原発震災、熊本地震、能登半島地震や豪雨災害、また口腔ケアにも触れている。「災害列島日本」だが、災害時の対応などは今も確立せず手探りが続く。防災減災を目指し同書から学びたい。 (クリエイツかもがわ 2,400円)  
杉山 正隆(ジャーナリスト)

阪神・淡路大震災30年、南海トラフ巨大震災に備える
クリエイツかもがわ (2025/7/1)