〈2025.11月号 書評〉松島 京太 (著)『汚された水道水 「発がん性物質」PFASと米軍基地を追う』・・・地道な調査報道が現実を動かす貴重な成果 評者:中島 岳志(東京科学大学教授)


近年の東京新聞の調査報道には目をみはるものがある。中でも注目してきたのが、PFAS問題だ。本書は、その中核を 担ってきた著者による成果を纏めたものである。
PFASはフッ素と炭素が結合した人工の有機化合物で、様々な健康被害をもたらすとされる。近年、米軍基地でのPFASを含む泡消火剤大量使用による地下水汚染が、明らかになってきた。
東京新聞立川支局勤務になった著者は、地元の問題としてPFASに出会う。市民団体が血液検査を始めるという情報を得て、2022年11月13日に「横田基地周辺 血 液検査へ」という見出しで1面に記事化、ネット上で大きな話題となる。
血液検査の結果が衝撃的だった。国分寺市を中心とする検査参加者の85%が「健康被害のリスクがある」という結果が出て、これを報道したことにより、多摩地の住人の怒りに火が付いた。
疑惑の先は米軍横田基地。そこには日米地位協定がはだかるが、その壁を著者は地道な取材で少しずつ崩していく。本書の特筆すべき価値は、地道な調査報道が現実を動かしていくプロセスを明示している点だろう。
この東京新聞の報道が世論を動かし、これ以上隠せないと考えた自治体や防衛省、米軍が動きはじめる。米軍は、報道を きっかっけに泡消火剤の漏出を認める。日本を守るために駐留しているはずの米軍が、日本人の身体を脅かしている現実があらわになっていく。
風化を狙う権力に対して、報道し続けることの重要性がよくわかった。ジャーナリストを目指す者にとって必読の書だ。 (東京新聞1,600円) 中島 岳志(東京科学大学教授)



