〈2025.11月号 書評〉西方ちひろ(著)『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』・・・非暴力から武装闘争へ──痛苦の転換  評者:鈴木 耕(編集者)



 世界はいま、血と殺戮に満ちているとしか言いようがない…。 
 本書はミャンマー軍事政権の下で、市民たちの優しく切ない非暴力抵抗が、ついに武器を手にした闘争へと変貌していく過程を、現地での体験をもとに書き記したもの。軍事独裁政権が持つ悪辣な抑圧と残虐な暴力の凄まじさが際立つ。
 2021年の軍事クーデターは、国民が抱いた民主主義への希望を、卵の殻を踏み潰すようにあっさりと打ち砕いた。民主化のシンボルであったアウンサンスーチー氏は自宅軟禁され、民主選挙の結果は軍靴の下に壊滅した。だがそこから人々の抵抗が始まる。SNSで集まり、鍋を打ち叩いて抵抗の意志を示し、さまざまな手段を使って全国で闘いを繰り広げる。
 著者は国際開発の仕事で大都市ヤンゴンに暮らしていたが、銃口と抵抗を目の当たりにした。それを国際社会に伝えるべく、SNSでイラストなども駆使して状況を発信していく。報じられることの少ないミャンマーの市民たちの闘いが、リアルな臨場感を伴って記録される。追いつめられてついに非暴力抵抗から武器を手にした武装闘争へ転換していく若者たちの痛苦な想いが悲しい。
 著者は日本のミャンマーへの関わりにも目を向ける。政府も企業もミャンマー国民よりも軍事政権を優先している現状を厳しく批判する。
 この12月には選挙が行われるが、民主的とはとうてい言い難い軍事政権下の偽装選挙だ。やむを得ないとはいえ銃を執った若者たちへの著者の眼差しが切ない。 (集英社 1,800円)  鈴木 耕(編集者)

ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか
ホーム社 (2025/9/26)