〈2026.1月号 書評〉国武 貞克・佐藤 宏之(著)『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス──新・日本旧石器文化の成立』・・・日本列島に到来した人類・旧石器文化の経路 評者:やまなか けんじ(JCJ運営委員)


本書は、アフリカに起源を持つホモ・サピエンス(現生人類)が日本列島へ到来した足取りをユラシア東方への拡散という壮大な時間軸に位置付け直す試みである。長野・香坂山遺跡と広島・冠遺跡の発見を軸に、北回りと南回り、二つの経路から列島に進出し、交錯していった可能性を指摘する。
列島への現生人類の到来をめぐる議論は、長ら<3万8千年前以降に限定されてきた。しかし、近年の発掘成果はその枠組みを揺さぶりつつある。かつての捏造事件で学界の基盤が深く傷ついたなか、3万8千年前を語ることはタブー視されてきたが著者の国武貞克氏と佐藤宏之氏は、再びこの領域に光を当てる。
香坂山遺跡の大型石刃はアルタイ〜中央アジアの初期上部旧石器時代と響き合い、近年検出された冠遺跡の4万2300年前の石器群は東アジア型中期旧石器の姿を留める。それは、現生人類が従来説より5千年も早く列島に現れていたことを示唆する。その論証の慎重さで倫理的緊張感は全編にみなぎっている。私自身、旧石器から中世に至るまで、人の痕跡が重層的に残る栃木・寺野東遺跡の近くで子ども時代を過ごし、日常の地続きに古代史が広がる幻視を抱いてきた。
本書が提示する北方の原野を縦横に駆け列島に大型獣を追った人々と南方の豊かな植物相に依拠してきた人々の異なる生存戦略が列島で出会い、重層した場としての列島観は単線的な「日本人の起源」論を解体させる。日本列島が単なる移動の終着点ではなく、ルートを異にした人々が再収束を果たした特異地であったことはその後、いくつもの日本を起ち上げたのだ。 評者:やまなか けんじ(JCJ運営委員) (朝日選書 1,550円)



