〈2026.2月号 書評〉佐野 雅昭 (著)『日本漁業の不都合な真実』・・・〈漁業危機〉の深窓に切り込み支援強化へ具体的提言 評者:栩木 誠(元日経新聞編集委員)


「水産王国日本」と評されたのは、はるか昔のこと。世界的に魚人気が高まり、漁獲量が過去最高を記録する中で、全く取り残されているのが現状だ。「このままでは、30年後には漁業者がいなくなり、日本の食卓から国産魚が消える」との声も聞かれるほどである。
コメなど農業と共に、「日本人の食」を支えてきた、日本漁業がどうしてここまで衰退の道を強いられてきたのか。こうした〈漁業危機〉の深層に、鋭く切り込んだのが本書である。
危機招来の要因について、メディアなどでは、とかく乱獲や資源減少、海流変化などを挙げがちだった。しかし事はそう単純ではない。地球温暖化の影響に加えて、担い手不足、操業コストの上昇、周辺国・地域との競合激化、海洋環境の悪化などの諸要因が、複合的に絡んでいるのである。だが同様の危機に瀕する農業と同様、政府は全くの「無為無策」、むしろ状況の悪化を促しているのが現状だ。
農業とあわせ日本の食料安全保障を大きく揺るがす漁業危機に対応するために、いま何をなすべきか。著者は、経済学者の宇沢弘文氏が唱えた、「社会的共通資本」の理論に準拠し、「(漁村、漁業の)保護を社会的費用と捉え、人間社会の豊かさを保ったまま未来の子供たちに遺さなければならない」と強調。
欧州などの先例に学び漁業者への直接支払い、国の水産物価格の保証など、具体的支援強化の重要性を指摘する。
加えて、目先だけで安い輸入食品に走るのではなく「長い目で見た未来のために、進んで国産食品そして国産水産物を選んで消費する、そういう倫理的で賢明な消費者が増える」ことに強い期待をかける。 評者:栩木 誠(元日経新聞編集委員) (新潮新書 900円)



