〈2026.2月号 書評〉木瀬 貴吉(著)『本づくりで世の中を転がす──反ヘイト出版社の闘い方』・・・惰性に流れずヘイトに抗い出版の途を開拓した冒険譚 評者:加藤 直樹(ノンフィクション作家)


副題に「反ヘイト出版社の闘い方」とある。そこから差別に反対する気骨ある出版社の生真面目な物語を想像すると間違う。これは出版を巡るワクワクするような冒険譚である。主人公の木瀬貴吉が、2人の仲間とともに、著者や書店に個性的な同志たちを見つけながら旅を続ける物語だ。
リンゴが樹から落ちるように、世の中には「いい本を数百部だけ刷る良心的な出版社」と「悪い本(例えばヘイト本)を売りまくる出版社」という構図が確かにある。
だが「『ころ』から車輪へ」という「パラダイムシフト」を掲げる「ころから」は、この構図を飛び越えて進んできた。
惰性に流れず、それまでの慣習も段取りも疑って途を切り開いてきたのである。「ころから」がヘイトに「抗える」のは、まずはその出版過程そのものが抗いであり、冒険だからなのだ。
例えば他社が出せなかった日本軍「慰安婦」を描いた絵本『花ばぁば』を、なぜ「ころから」は出せて、しかも三刷までできたのか。それは単に「良心的」だったからではなく、出版の過程で創意を大いに発揮しているからだ。
この本は、だから出版の大変さとワクワクを伝える本である。いや、出版だけでなく、いろんな分野に「ころから」がいれば、世の中はもっと面白い方向に「転がって」いくだろう。
実は、私もこの本の登場人物の一人だ。互いに全く無名だった時代に、「ころから」からの出版のオファーを受け入れたのは、サイトを見てピンと来たからだ。「この人たちとなら、冒険ができそうだ」と思った。そこから、私も「ころから」物語の登場人物の一人となり、冒険が始まったのである。 評者:加藤 直樹(ノンファクション作家) (集英社新書 1,000円)



