〈ジャーナリスト4月号・書評〉松岡かすみ著「ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢」・・・表面からは窺い知れない人権擁護の難しさと実態
■松岡かすみ著「ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢」)・・・表面からは窺い知れない人権擁護の難しさと実態
本書は海外で出稼ぎを行う日本人風俗嬢たちの仕事内容、出稼ぎに至る経緯、海外での暮らしぶりなどを詳細に綴ったルポルタージュである。
「出稼ぎ」という言葉にはカジュアルな響きがあるが、その実態は完全な不法就労である。売春を合法化している国もあるが、不法就労の外国人女性が働くことまで許している国は存在しない。
本書には、海外で出稼売春経験のある女性たちが登場する。それぞれの女性の語りの中には、確かに頷ける部分や共感できる部分もある。しかし、少なくとも海外での不法就労による売春行為を、社会的に擁護・正当化できるようなエピソードやロジックは、まったく出てこない。
女性たちが海外での売春に駆り立てられる理由を、きちんと言語化しないと、「不法就労だから摘発しろ」で終わってしまう。仮に言語化できたとしても、「とはいえ不法就労だから摘発しろ」の声は消えず、同じ結果になる可能性は高い。
売春が法律で禁止されている国での性労働従者の権利擁護が、難しい理由はこうした点にあるのだろう。当事者を支援すること自体が、不法就労に加担することになり、違法な仕事を黙認・斡旋していると見なされてしまう。
そう考えると「風俗」という合法的なカテゴリがある日本は、海外に比べて性産業従事者の権利を守りやすい国なのではないだろうか。
日本の「風俗」を嫌って海外に飛び出した女性たちのルポルタージュから見えてくるものが、むしろ日本の「風俗」という枠組みこそが、女性たちを法的・社会的に守ることができるという現実は、なんとも皮肉なことである。 評:坂爪真吾(NPO法人「風テラス」理事長) (2024年4月25日「ジャーナリスト」通巻793号 掲載)
■〈JCJ Online講演会〉JCJオンラインでは5月11日(土)、著者・松岡かすみさんをお招きしてオンライン講演会を予定!
■講演タイトル:出稼ぎ売春〝現代のからゆきさん〟実態と今後
■開催趣旨:
求人サイトを介して米国やオーストラリア、カナダなどへ日本人女性の売春をあっせんした男4人が警視庁に4月逮捕された。その女性の数は2021年ごろから3年間で200から300人に及ぶという。エスコートガールなどの名前で募集するこうした悪質業者を通さないで、独自で広げた富裕層の外国人顧客を相手に高収入を得る女性や現地のマッサージ店で日本の性風俗店の何倍も稼ぐ人も少なくない。
不法就労・国外退去の危険をおかしてまで海外に行くのはなぜなのか。衰退する日本を映し出す「出稼ぎ売春〝現代のからゆきさん〟実態と今後」について『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版新書2月刊行)の著者のフリーランス記者・松岡かすみ氏が報告する。
■講演者プロフィール:松岡 かすみ (フリーランス記者・まつおか・かすみ)
1986年高知県生まれ。同志社大学社会学科卒業。PR会社、出版社勤務を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。21年からフリーランスとして、雑誌や書籍、ニュースサイト、ウェブマガジンなどのメディアを中心に活動。著書に『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新書)。
■講演開催日時:5月11日(土)14:00〜16:00(zoomにてオンライン 記録動画の配信有り)
■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0511.peatix.com/)で参加費をお支払いください。
※JCJ会員は参加費無料。
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