メディアは沖縄をどう報じたか 《復帰50年 JCJオンラインシンポ》

「ジャーナリスト」2022年6月号 通巻771号

 JCJ沖縄は5月28日、オンラインシンポジウム「復帰50年 沖縄報道を振り返る〜ジャーナリズムは何をしてきたのか」を開催した。日本復帰(施政権返還)から50年たっても変わらない米軍基地問題、「台湾有事」が喧伝される中で自衛隊増強をどう報じるのか、戦後史を若い世代にどう伝えるのかなど、多様な問題を議論し、本土、県内それぞれのメディアの課題も提起された。米倉外昭
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 パネリストは沖縄タイムスの森田美奈子論説委員長、琉球新報の宮城修論説委員長、NHK沖縄キャスターの内原早紀子さん、ジャーナリストで映画監督の三上智恵さん(発言順)がパネリストを務め、多くの質問にも答えた。本土側のメディア研究者2人、同時代を生きてきたベテランジャーナリスト2人のコメントもあった。松元剛琉球新報編集局長がコーディネーターを務めた。全国から約300人が事前登録し、ピーク時で182人が視聴した=写真。

戦後史の不在
 森田沖縄タイムス論説委員長は「戦後史の不在が浮かび上がった。戦後史、米統治時代の歴史が風化しつつある」と指摘。各メディアの世論調査で基地に対して沖縄の世代間の意識の違いも明らかになり「内部の溝も現れた」と危機感を示した。ジャーナリズムの役割として「二度と戦争を起こさないよう警鐘を鳴らしていきたい」と述べた。
 宮城琉球新報論説委員長は、沖縄の施政権が切り離されたサンフランシスコ講和条約発効70年だった4月28日の社説で「重要な時に県民は決定に加われなかった。沖縄」の未来は沖縄の人たちに決めさせるべきだ」と主張したと説明。憲法記念日の5月3付では、基地問題は「地方に関わる法律を制定するときには住民投票を行うと定める憲法的条が適用されるベきだと論じた」と述べた。
 復帰当時を知らない世代である内原キャスターは、出身地石垣島の戦後のマラリア撲滅の取り組みを調べた経験に触れ、自身に戦後史に対する「当事者意識が生まれた」と語った。また、街頭の声を拾う取材で「復帰。年を知らない若者が多かったことに驚いた」と報告、「今生きている世代が当事者意識を持つような報道をしていかなければならない」と提起した。

諦めず主張を
 琉球朝日放送で長くキャスターを務めた三上さんは「1972年の時に積み残された課題を一つ一つ解決していく気持ちで報道してきたが、再び戦争前夜になってしまった。沖縄報道の敗北だ」と強調した。そして「本土メディアは腫れ物を触るような『申し訳ない』という報道を続け、国防について論じることができなかった。そして「戦前を学ばないと今が戦前だと分からない。過去の戦争も今の戦争も、戦争報道は敗北している」と問題提起した。
 山田健太専修大教授は、辺野古の新基地建設について15年前には全国のメディアは「唯一の選択肢」「後戻りできない」という主張が大半だったが変化してきたと指摘した。「今は県民の意向を尊重しようと言うようになっている。地元メディアは諦めずに言っていくべきだ」と述べた。
砂川浩慶立教大教授は、放送局で「沖縄の問題は視聴率が来ないんだよね」と言われていることを挙げ、東京の目線による報道の制約という構造的な問題を指摘した。山田教授、砂川教授とも、東京の学生らに「自分ごと」として理解させるために課題があると強調した。

日本の自立促す
 琉球新報OBの高嶺朝一氏のコメント 日本の歴代の政権・政策立案者の考え方、メンタリティーは、ずっと米国の支配下にある。それが基地問題の根源にあると私は考えている。私たちのできることは、事実を伝えることで全国の人々、アメリカの市民の覚醒を促して、また日本の自立を促すことではないかと思う。もう一つ大切なことは、市民ジャーナリストとの連携、国外のメディアの担い手との連携ではないか。また、情報の受け手が本当の情報と誤報を見分けるメディアリテラシーの教育も重要だと思う。

思考停止感じる
 沖縄タイムスOBの諸見里道浩さんのコメント 「有事」という言葉が対象とするのは沖縄だけではない。「台湾有事だから、日本の安全保障のために、沖縄さん、我慢して基地を置いて」という論理は、自分たちが戦争に加わるというリアリティーが欠けているのではないか。「有事」まで沖縄に特化しているところに、全国メディアの思考停止を感じる。沖縄から見える国の姿を、メディアを通して展開してもらいたい。