■2025年・第68回 JCJ賞受賞作品を発表

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日本ジャーナリスト会議(JCJ)が優れたジャーナリズムの報道や作品を顕彰するJCJ賞の今年の受賞作品が決まりました。JCJ賞は1958年にスタートしてから今年で68回を迎えます。戦後80年の節目に当たる今年は選考の結果、平和を脅かし戦争へと向かう足音が聞こえる中で80年の歩みを検証し警鐘を鳴らす作品や、独自の視点や地道な調査報道で社会や政治の歪みを鋭くえぐりだしていく作品など、優れた6点の作品に決まりました。

【JCJ大賞】 1点
・『地震と虐殺 1923-2024』 安田浩一 中央公論新社

【JCJ賞】 4点
・被爆80年企画「ヒロシマドキュメント」 中国新聞社 取材班
・「沖縄戦80年 新しい戦前にしない」キャンペーン報道 琉球新報社 取材班
・一連の鹿児島県警情報漏洩事件の報道 ドキュメンタリー「警察官の告白」 鹿児島テレビ放送 取材班
・選挙運動費用・政治資金をめぐる一連の報道と、「選挙運動費用データベース」の構築 調査報道グループ・フロントラインプレスおよびスローニュース

【JCJ特別賞】 1点
・『ガザ、戦下の人道医療援助』 萩原 健 ホーム社発行 集英社発売



〈2025年 第68回JCJ賞受賞作品 講評〉

【JCJ大賞】 1点
●『地震と虐殺 1923−2024』 安田浩一 中央公論新社

地震とは1923年9月1日の関東大震災である。虐殺とは、デマによる朝鮮人、中国人、日本人を犠牲者にした人災である。デマは警察が流し、政府・国、軍とともに新聞もまた煽動者の側にいた。筆者は虐殺の現場を訪れる。中山競馬場駐車場では、虐殺の痕跡はどこにも残っていない。船橋では法界無縁塔を建立し、犠牲者の追悼式が行われた。東京、千葉、埼玉、神奈川から大阪、福島など広範囲にわたって筆者は当時の資料を掘り起こし、新たな記録を発見した。差別と偏見をなくすことはジャーナリズムの大事な働きの一つで、この作品はジャーナリズムの活動として大変優れている。「虐殺の時代」を繰り返すことがない社会を一緒に作っていく、との筆者の思いをともにしたい。

【JCJ賞】 4点 (順不同)
●被爆80年企画「ヒロシマドキュメント」中国新聞社 取材班 

核兵器による攻撃から80年。被爆地ヒロシマの新聞社として、原爆による被害とは何か、人生の破壊に抗う格闘の物語として伝えようとした、その努力と覚悟に敬意を表する。
連載は、1945年8月5日で途絶えた、当時13歳の女学生の未公開の日記から始まる。そこには建物疎開の作業に明け暮れる軍都広島の日常が綴られていた。
連載で特に目を引いたのは、被爆者の5人にひとりと言われる朝鮮半島出身者の被爆の実相に迫り、差別だけでなくさまざまな支援が広がったこと。また、プレスコードのもとでメディアが沈黙を強いられる中、画家・作家・歌人・俳人たちが懸命に記録を残そうとしたことなど、新たな知見が多く見られた。
昨年の日本被団協のノーベル賞受賞。そこに至るまでの被爆者本人たちの地道な努力が続けられてきた。連載は今年5月以降も続き、大きな業績となった。
核戦争の危機が叫ばれる今、これからも被爆の実相を伝え、核なき世界を現実のものとするために、熱い期待を込めてここにJCJ賞を贈る。

●「沖縄戦80年 新しい戦前にしない」キャンペーン報道 琉球新報社 取材班  
一般住民4人にひとりが命を奪われた沖縄戦から80年。政府は「台湾有事」をことさらうたい、沖縄の軍事要塞化を進めている。そんな中でスタートしたキャンペーンの表題は「新しい戦前にしない」。5部にわたる長期連載は、1931年の満州事変から顧みる。
沖縄の人々も日中戦争、満州移民、台湾や南方進出に深く関わり、アジア侵略の一翼を担った。戦争における被害だけでなく、加害責任にも向き合う姿勢は、キャンペーンをより力強く、説得力のあるものにした。
紙面づくりの面でも工夫が見られ、紙面を両面使った歴史地理年表は、沖縄を拠点にアジアで何がなされてきたのか、また、日本軍による民間人の集団強制死が沖縄だけでなく、満州や南洋諸島などでも繰り返された実態を明らかにした。
魅力ある企画も多く見られた。記者が聞く家族の中の沖縄戦。身内の人間が迫ることで、地上戦や勤労奉仕、米軍基地への接収の実相が等身大の物語として浮かび上がった。
琉球新報社が社をあげて取り組んだ信念と覚悟が見えるこの企画に対して、戦さ世が二度と訪れないようにとの強い願いを込めてここにJCJ賞を贈る。

●一連の鹿児島県警情報漏洩事件の報道 ドキュメンタリー「警察官の告白」 鹿児島テレビ放送 取材班
 旧薩摩藩士で〝日本警察の父〟と呼ばれた川路利良が草葉の陰で泣いている。鹿児島県警の警察官やその身内によるストーカーやわいせつ行為、盗撮事件等々と、これらを組織ぐるみでもみ消そうとする動きが頻発。腐敗を憂えて公益通報に踏み切った幹部警察官を逮捕することにさえ躊躇がなかった。
 事態は調査報道サイトなどの活躍で公になり、県警本部長が退陣に追い込まれたが、今後の組織改革については不透明な部分も大きい。警察権力への継続的な監視が必要である。
 そのような折に、鹿児島テレビ放送は問題の本質を詳らかにするドキュメンタリーを放送した。独自ダネ満載、というわけではないが、映像メディアの強みが存分に生かされた素晴らしい作品だ。
 ともすれば権力との癒着ばかりが指摘され、信頼を失いがちな近年の放送界にあって、勇気ある、否、ジャーナリズムとして当然の仕事を成し遂げた作品にJCJ賞を贈る。

●選挙運動費用・政治資金をめぐる一連の報道と、「選挙運動費用データベース」の構築 調査報道グループ・フロントラインプレスおよびスローニュース
フロントラインプレスは調査報道サイト「スローニュース」を通じて、与野党の国会議員の政治とカネの問題を独自の視点で掘り下げて報じた。沖縄県において、国と契約関係にある企業が選挙直前に自民党の国会議員を代表とする政党支部に献金をおこなってきた問題や、与野党の国会議員がみずからの政治団体に寄付し還付申告によって税額控除を受けている問題、自民党の政党支部が都道府県連から資金を受け取っているが都道府県連側には対応する支出記録がない事例が多数に及ぶ問題などである。これらは政治資金収支報告書の丹念な収集・分析を含む、地道な取材の成果と言える。
加えてフロントラインプレスは、日本大学法学部・安野修右准教授の研究室およびスローニュースと共同で、選挙運動費用収支報告書をネットで閲覧できる「選挙運動費用データベース」を構築し、公開を始めた。このデータベースは手書きの文字の検索も可能となっており、同じ費目について各候補者の記載を横断的に比較することもできる。選挙運動費用のデータベース化は日本で初めての試みとのことで、幅広いジャーナリストや研究者に活用の機会を開いている点も含めて、ネットメディアならではの取り組みとして評価できJCJ賞に値する。

【JCJ特別賞】  1点
●『ガザ、戦下の人道医療援助』 萩原 健 ホーム社発行  集英社発売

イスラエル軍による爆撃が続くパレスチナ自治区「ガザ」。かつての美しい海辺の街は、いまや瓦礫と血の臭いに満ちている。本書は国際NGO「国境なき医師団」の緊急対応コーディネーターとして、戦時下のガザにおいて人道医療援助チーム数百名の指揮を執った萩原健氏による6週間の活動記録である。
医療チームの活動は、まさに死と隣り合わせの日々だった。その中で中立の立場を保持しながら、ひとりでも多くのパレスチナ人の命を救おうと奮闘するするスタッフたち。活動期間が6週間という短期の設定は、それ以上の活動は人間の限界を超えるという本部の判断である。それほどに過酷で厳しい体験が、読む者の胸をえぐる。
ガザの状況はいま、本書で描かれた以上の悲惨さを増している。まさにジェノサイドである。日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、少しでも人々の目がガザに注がれることを願い、1日でも早い戦火の終息を願って、本書とその著者に「特別賞」を贈る。これは、JCJから「ガザ」の人たちへのせめてものエールである。


■贈賞式:9月27日(土) 13:00~16:30  東京・水道橋 全水道会館・4階大会議室
     オンライン参加はこちらで受け付け:https://jcjaward2025.peatix.com

全水道会館(画像クリックでGoogleマップ)
〒113-0033 東京都文京区本郷1丁目4−1 全水道会館ビル4階




▼お問合せは、下記までお願いします。
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 
 〒101-0061東京都千代田区神田三崎町3-10-15 富士ビル501号 
       TEL:03-6272-9781(月、水、金 13時~17時)
       e-mail:office(アットマーク)jcj.gr.jp
       古川英一(事務局長)、大場幸夫(JCJ賞推薦委員会)