〈2025.5月号 書評〉藍原寛子著「震災後を生きる13人の物語 フクシマ、能登、そしてこれから」・・・被災地の人々から学ぶ 痛みを伴う貴重な教訓  評者:坂本充孝(ジャーナリスト) 



 天災は故郷を壊わし、生活をなぎ倒し、心を打ちのめす。そんなとき人は、どうやって起き上がり、歩き始めるのか。東 日本大震災と能登半島地震。二つの災害現場を舞台に復興に力を尽くす13人の物語を、福島在住の著者が丹念に追跡する。
 福島第一原発に近い浪江町出身の歌人である三原由起子さんの次の歌が語る。
 原発の話題に触れればその人のほんとうを知ることはたやすい
 放射能汚染への恐怖は人の心を引き裂いた。疑心暗鬼と分断、やがて沈黙へ。だが故郷を取り戻そうという三原さんらの働きかけに空気は少しずつ変化する。
 南相馬市でホッキ貝の漁師だった志賀勝明さんの物語も再生の物語だ。
 原発建設に反対した志賀さんは漁協の中で孤立する。孤独な漁が50年も続き、その挙句に起きたのが事故だった。憤りと悔恨と。爆発しそうな力を、志賀さんが振り向けたのは護憲運動だった。
 南相馬市には、日本国憲法の間接的起草者、憲法学者・鈴木安蔵の生家があった。その建物を記念館にしようと立ち上がる。「平和憲法を守らな かったら、戦後、俺らが 生きてきた意味がない」と。
 著者自身も、14人目の戦う者だったろう。2024年1月、能登半島で地震が起きると、被災地に飛んだ。被災者の虚ろな顔。がれきの山。福島 の記憶が蘇り、既視感に捕らわれた。そして「福 島と能登は運命共同体」の思いを強くする。
 そして能登でも出会ったへこたれぬ人々。災害大国に生きる私たちに、本書は希望を与えてくれる一冊だ。 (婦人之友社 1500円) 坂本充孝 (ジャーナリスト)



フクシマ、能登、そしてこれから 震災後を生きる13人の物語 婦人之友社(2025/3/5)