〈2025.6月号 書評〉吉田敏浩著「ルポ 軍事優先社会──暮らしの中の「戦争準備」・・・日本各地を歩いて分析 急速に強化される戦争態勢 評者:末浪靖司(ジャーナリスト)

本書は、米軍と自衛隊の一体化が進み、強化されている実態を分析し、この問題に関わる情報を豊かに分かりやすく読者に提供している。
岸田内閣が決定し石破内閣が実行している「国家安全保障戦略」などの安保3文書と、そこに書かれた敵基地攻撃能力について、日本がアメリカの中国攻撃戦略の捨石のように利用されるという指摘は、問題を国際的にも見ており興味深い。
とくに台湾有事で中国と戦争になることを想定した九州・沖縄各地のルポは臨場感がある。
自衛隊は18歳から22歳までの若者の名簿を市区町村から出させ、本人にダイレクトメールを送っている。著者は少子化と若年人口の減少が進む中で自衛隊の海外を含む任務の拡大、米軍との共同作戦・演習の増加があるという。軍事態勢の強化は今や国民全体に影響する問題になっている。
本書は、軍事費の膨張が国民生活を圧迫していること、軍事大国化が進む根本には対米従属があること、横田基地で実際に見た米軍CV22オスプレイの危険な飛行、米軍と自衛隊による空港や港湾の使用が進み、自治体が戦争態勢に巻き込まれていることを指摘する。
これまで多くの著書を刊行し、社会に警告してきた著者が、今日の時点にたって日米同盟下で進行する戦争態勢強化について書いた意味は、極めて大きい。
外交や軍事について、平素は考えたことがない人にもやさしく読める。ビルマ(ミャンマー)北 部カチン族の人々と生活を共にして書いた『森の回廊』で、大宅壮一ノン フィクション賞を受賞の著者ならでこそと思う。(岩波新書 960円) 末浪靖司(ジャーナリスト)