〈JCJ声明〉戦前の遺物「国葬」に メディアは明確に反対を


安倍晋三元首相が銃撃を受け死去した。これに対し岸田文雄首相が「国葬」を 実施すると閣議決定したことに、批判が強まっている。だが主要メディアの「国 葬」に対する姿勢はあいまいだ。「国葬」は天皇主権の明治憲法体制の遺物であ り、国民主権・民主主義とは相いれないという立場を、報道機関は明確にし、人々 に伝えるべきではないか。「国葬」とは何か歴史を踏まえて検証し、国民の「知 る権利」に応え、「国葬」を実施するなと主張することを強く望みたい。
「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてき た。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命 令の規定の効力等に関する法律」第1条により 1947 年に失効した。日本国憲法 の思想信条の自由、内心の自由、政教分離の原則と相いれないからだ。
現在、国葬を行うことにも、その経費を全額国費から支出することにも法的根 拠はない。政府は内閣府設置法で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」と して閣議決定すれば可能とするが、「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法 的根拠はない。
1967 年 10 月に吉田茂元首相の国葬が行われた。この時も当時の佐藤栄作首相 が閣議決定だけで実施した。翌年の衆議院決算委員会で根拠法がないことにつ いて質疑があった。その後議論が深まることはなく、「国葬」ではない合同葬や 「国民葬」が行われてきた。それが今なぜ唐突に「国葬」なのか。
今回の「国葬」に対する主要メディアの批判は、国会で説明していないこと、 故人の業績への評価が分かれていることなどに重点を置いている。安倍元首相 と旧統一協会との深いつながりが明らかにされてきた今、それらも重要な問題 として追及しなければならないのは当然である。
しかし何よりも、「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する 弔意を事実上強制することにある。国費で行うため、国民は税負担も強制される ことになる。「弔意を強制することはない」と政府は言う。しかし、吉田元首相 の国葬では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止された。
近年でも「日の丸・君が代」を法制化した際、国民には強制しないと政府が説 明したにもかかわらず、学校現場などで強制された例は数多い。教員らの処分が 横行した。それと同様に、「国葬」への抗議行動が監視や取り締まりの対象にな る恐れがないと言えるだろうか。また今後、「国葬」に類する政治的行事が乱発 される危険はないだろうか。
「国葬」強行は、戦前回帰、異論封殺、国民総動員につながりかねないという 危機感を持って、報道機関は取材に当たってほしい。戦後ジャーナリズムの原点 に立ち返って「国葬」にきっぱり反対の論陣を張ることを呼びかける。

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