〈2025.5月号 書評〉永野慎一郎著「秘密資料で読み解く 激動の韓国政治史」・・・韓国民が自らの闘いを通して民主主義を勝ち取った軌跡 評者:鈴木 耕(編集者)

昨年12月4日、韓国の尹 錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突然、非常戒厳布告したのには、誰しも度肝(どぎも)を抜かれたに違いない。
民主国家において、国内や周辺地域で特段の危機的状況が起きていないにもかかわらず、非常事態を宣言して軍隊を動かそうとしたのだ。だがそれは民衆の抵抗により阻止された。そして尹氏の逮捕、弾劾裁判、大統領失 職。いったい何が起きたのだろうか?
私は本棚の「積読(つんどく)コーナー」から、いつか読も うと思いながら、埋もれていた本書を探し出してきた。今回の事態を理解するには、韓国の政治史から説き起こした本書は最適な教科書と思ったからだ。
読みながら早く読んでおくべきだったと、「積読」を後悔した。それほ ど今回の非常戒厳事件の深層を、理解するのに役立つ本だった。
本書は一言でいうならば、韓国という国が民主主義を勝ち取るために辿った、厳しくも悲惨な、そして輝かしい闘いの軌跡を明らかにしている。
悪名高い朴正熙軍事独裁政権が引き起こした政敵・金大中拉致事件、 また朴の夫人が狙撃されて死亡、さらに自身も側近だった情報部長に暗殺される。それが軍事独裁崩壊へ続くかと思いきや全斗煥軍事クーデター、軍事政権に抵抗した学生市民の蜂起が、あの凄惨な「光州事件」へとつながる。
だが民主化を求める民衆の力は軍政を引き継いだ盧 泰愚(ノ・テウ)政権を引きずりおろし、やがて民主政権の誕生へと道を開く。
その闘いの記憶が、韓国民をして、今回の尹錫悦の軍事クーデターを叩き潰したと言っていい。読めば血で勝ち取った、民主主義の尊さを実感する。現代韓国理解のための必読書である。 (集英社新書 1000円) 鈴木 耕 (編集者)