〈2025.6月号 書評〉井出留美著「私たちは何を捨てているのか 食品ロス、コロナ、気候変動」・・・食品が内包する地球規模の大テーマ 評者:大井 洋(筑波大学名誉教授)

著者は栄養学分野で研究を重ね博士号を取った後に、食品ロス問題ジャーナリストとして活躍している。本書は文献や情報検索に基づく明確な文章で書かれ、説得力のある内容となっている。著者のこだわりだけで書かれた本ではない。
食品ロスの問題点と発生原因について、詳しく分析され、問題の解決方向も示されている。幾つかの講演に加筆した章を集めたもので、読み応えのある内容である。
全体的な論理展開には、やや重複があり、一気に読もうとすると頭脳が飽和状態になってしまうかもしれないが、「食品ロ スをなくそうという結論はわかった」と、途中で 止めないで、章ごとに繰り返し読んでほしい。
コロナ、ウクライナ、 ガザに続きトランプの登場など、世界に広がる懸念の中心に〝食〟のテーマがますます深く知覚されるようになってきた。そこに登場してきた本である。飼料も肥料も燃料も恐ろしく低い日本の自給率が暴露されている。
本書は食品ロス問題を生産・流通・消費の各段 階から明らかにし、その背後にある構造的課題を気候変動による影響の観点から指摘する。食品廃棄は単なる「もったいない」ではなく、膨大な資 源とエネルギーの無駄、かつ環境破壊と直結している事実を突き付ける。
各章の有機的なつながりが理解できる。著者は、この問題を大所高所から語るだけでなく、「自分 ごと」として向き合い、 食品を「見て、嗅いで、 味わって」判断する小さな実践が、環境への負荷を減らし社会の構造すら変える力を持つことを訴えている。(ちくま新書 920円) 大井 洋(筑波大学名誉教授)